大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台地方裁判所 平成8年(ワ)270号 判決 1998年7月30日

宮城県宮城郡<以下省略>

原告

X1

宮城県宮城郡<以下省略>

原告

X2

宮城県多賀城市<以下省略>

原告

X3

右原告ら訴訟代理人弁護士

吉岡和弘

右同

小野寺信一

右同

齋藤拓生

東京都中央区<以下省略>

被告

豊商事株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

吉田訓康

主文

一  被告は、原告X1に対し、金八九二五万円及びこれに対する平成七年一一月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告X2に対し、金六四九五万円及びこれに対する平成七年一一月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告は、原告X3に対し、金九六〇万円及びこれに対する平成七年一一月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告らの、その余を被告の負担とする。

六  この判決は、原告ら勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告X1に対し、金一億八七〇〇万円及びこれに対する平成七年一一月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告X2に対し、金一億二八〇〇万円及びこれに対する平成七年一一月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被告は、原告X3に対し、金一七〇〇万円及びこれに対する平成七年一一月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は被告の負担とする。

5  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  当事者

(一) 原告ら

(1) 原告X1(以下「原告X1」という。)は、有限会社aの代表取締役の地位にあり、これまで被告との間で商品先物取引を行った経験を有する者である。

(2) 原告X2(以下「原告X2」という。)は、観光土産品卸業を営む者である。

(3) 原告X3(以下「原告X3」という。)は、贈答品販売業を営む者である。

(二) 被告

被告は、国内公設の商品先物取引仲介業務等を主たる目的とし、本社を東京都に、支店を仙台市等に置き、東京穀物、東京工業品取引所の商品取引員たる資格を有する株式会社であり、B(以下「B」という。)は、登録外務員の資格を有し、平成八年一月まで被告仙台支店長の地位にあった者である。

2  原告X1の取引(原告らとBとの間で行われた一連の取引を、以下「本件取引」という。)の経過

(一) 取引に至る経緯

(1) Bは、平成七年一月中旬ころ(以下平成七年については「月日」のみを表示する。)、被告仙台支店長赴任の挨拶のため、被告の顧客である原告X1宅を訪問し、原告X1に対し、必ず利益を出すので、Bに相場を任せるよう勧誘したが、原告X1は、それまで商品先物取引で利益が出たことがほとんどなかったことから、一たんはこれを断った。

しかしその後も、Bは、数回にわたり原告X1宅を訪れ、商品先物取引への投資を熱心に勧誘したことから、原告X1は、同月末か二月初めころ、五〇万円だけ投資することとし、Bに対して五〇万円を交付した。

(2) 数日後、Bは、原告X1に対し、二〇万円の利益が出た旨電話で連絡し、Bを信頼してさらに取引を続けるよう勧誘したので、原告X1は、前回交付した五〇万円に右利益金二〇万円を加えた合計七〇万円を委託証拠金として取引を継続することに同意した。

(3) さらに数日後、Bは、原告X1に対し、「また利益が出ました。もっと大きな儲け話があるので、ぜひお会いしたい。」と勧誘したので、原告X1は、これに応じることとし、二月二二日ころ、仙台市内のホテルで、Bと会った。

その際、Bは、原告X1に対し、「普通に先物取引をしていたのでは、大きく儲けることもあれば、逆に、大きく損をすることもあります。被告として、五パーセントの利益保証をするので、まとまったお金を委託証拠金として出してみませんか。」と話した。

原告X1が、「間違いなく、本当に五パーセントの利益保証をしてくれるのですか。」と確認すると、Bは、「支店長である私を信じて下さい。私は、本社の法人部にいた関係で、東京の大手法人客の大口取引を任されています。常時、一〇億円程度を運用する権限があります。大手法人客からは莫大な手数料収入があるので、利益保証をして、大手法人客を離さないようにしているのです。私の権限で、X1さんを特別に大手法人客の取引枠に入れることによって、間違いなく五パーセントの利益保証を致します。ですから、取りあえず、二〇〇〇万円を委託証拠金として出してみませんか。」と説明した。

さらに、原告X1が、「被告自身が五パーセントの利益保証をしてくれるのですね。被告の領収証をもらえるのでしょうね。」と確認すると、Bは、「もちろんです。被告が責任をもって行う取引ですから、会社としての領収証を発行致します。」と答えた。

(二) 取引の内容

(1) 原告X1は、Bの右説明を聞いてBの勧誘に応じることとし、二月二四日から九月二五日にかけて、Bに対し、左記のとおり委託証拠金として、合計二億三七〇〇万円を交付した。

① 二月二四日 二〇〇〇万円

② 三月三日 一二〇〇万円

③ 三月三〇日 一〇〇〇万円

④ 四月二一日 一〇〇〇万円

⑤ 五月一〇日 一〇〇〇万円

⑥ 六月二九日 二七〇〇万円

⑦ 七月一二日 八〇〇万円

⑧ 九月一日 三〇〇〇万円

⑨ 九月一一日 六〇〇〇万円

⑩ 九月一九日 三〇〇〇万円

⑪ 九月二五日 二〇〇〇万円

(2) 領収証の発行

Bは、右(1)①ないし⑪の金員交付の際、原告X1に対し、交付した金額に対応した金額が記載された上、被告仙台支店の横判と角印が押され、但書欄に「イタクショウコキントシテ」とタイプされた領収証を発行した。

(3) 利益金等の交付

原告X1は、本件取引の間、Bから利益金として、三月三日、一〇〇万円、同月三〇日、一六〇万円、四月二一日、二一〇万円、五月一〇日、二六〇万円、六月二九日、三一〇万円の交付を受けて、すっかりBを信用したが、さらに、Bから、七月五日、二〇〇〇万円、九月一三日、三〇〇〇万円の合計五〇〇〇万円の出資金元金の返還を受けた。

3  原告X2の取引の経過

(一) 取引に至る経緯

(1) 三月初旬ころ、Bは、原告X1に対し、「また利益が出ました。どうです、私の言ったとおりでしょう。ついては、X1さんと同じように出資してくれる人をどなたか紹介してもらえませんか。」等と述べて、新たな出資者の紹介を依頼した。

そこで、原告X1は、同X2に対し、「先物取引会社の仙台支店長が、必ず利益を保証すると言っている。事実、これまで利益を出している。あなたも出資してみないか。」と話したところ、原告X2は、「一度、直接その支店長から話を聞いてみたい。」旨返答した。

(2) 同月三日、原告X1は、自宅で、Bに対し、原告X2を紹介した。

その際、Bは、原告X2に対し、「X2さんの場合、これまでに被告との取引がなく、新規の取引となるので、まず、口座を開設してもらう必要があります。支店長の私が保証するので、確実な取引です。X1さんと同様利益を出しますので、お任せ下さい。」等と説明した。原告X2は、Bの説明を聞いて、被告との取引に応じることとし、口座開設に必要な書類に署名押印した上、Bに対し、三〇〇万円を交付した。

(二) 取引の内容

(1) その後、原告X2は、Bから次々と追加出資の話を持ち出され、原告X1と同様、被告仙台支店長の地位にあって、大手法人客の取引を利用して、確実に利益を発生させてくれるものと信じて、Bに対し、左記のとおり委託証拠金として、合計一億二八〇〇万円を交付した。

① 三月三日 三〇〇万円

② 三月三〇日 一五〇〇万円

③ 五月二六日 三〇〇万円

④ 七月一二日 二〇〇万円

⑤ 九月一一日 六〇〇〇万円

⑥ 九月二〇日 二〇〇〇万円

⑦ 一一月二四日 二五〇〇万円

(2) 領収証の発行

Bは、右(1)①ないし⑦の金員交付の際、原告X2に対し、同X1に対して交付した領収証と全く同じ形式の領収証をそれぞれ発行した。

(3) 利益金の交付

原告X2は、本件取引の間、Bから利益金として、三月三〇日、一五万円、四月二一日、九〇万円、五月二六日、九〇万円、七月一二日、一〇五万円の交付を受け、すっかりBを信用した。

4  原告X3の取引の経過

(一) 取引に至る経緯

九月下旬ころ、Bは、原告X1に対し、「X2さん以外にも、出資してくれる人をどなたか紹介してもらえませんか。もちろんその方にも被告が利益を保証しますし、その旨被告が書面も出します。」等と述べて、さらに新たな出資者の紹介を依頼した。そこで、原告X1は、同月二五日、自宅において、Bに対し、原告X3を紹介した。

(二) 取引の内容

(1) Bは、原告X3に対し、同X2に対するのと同様に利益保証を約束して取引を行うよう勧誘した。原告X3は、Bの説明を聞いて取引に応じることとし、口座開設に必要な書類、契約書等に署名押印した上、右同日、Bに対し、一〇〇〇万円を交付した。

さらに、原告X3は、一一月二四日、商品先物取引のための委託証拠金として、Bに対し、七〇〇万円を交付した。

(2) 領収証の発行

Bは、右(1)の金員交付の際、原告X3に対し、同X1及び同X2に交付した領収証と全く同じ形式の領収証をそれぞれ発行した。

5  被告の責任

(一) 委託証拠金返還義務

Bは、被告仙台支店長であって、かつ、登録外務員であることから、委託証拠金を受領する代理権限があり、Bが原告らから、委託証拠金として、前記のとおり、原告X1については合計二億三七〇〇万円、同X2については合計一億二八〇〇万円、同X3については合計一七〇〇万円(以下「本件出資金」という。)の金員を受領し、その旨の書面を交付している以上、商品取引員たる被告が委託証拠金を受領したことになる。

したがって、被告は、原告らに対し、右金員の返還義務を負う。

(二) 使用者責任

仮に、そうでないとしても、Bは、被告仙台支店長としての地位、権限を利用して、原告らに対し、あたかも支店長の地位にある者は被告として利益を保証することも可能であり、原告らに特別な便宜、優遇を図り、五パーセントの利益を保証するかのごとく原告らを欺き、その旨信じた原告らから、商品先物取引のための委託証拠金名下に本件出資金をそれぞれ交付させて騙取し、しかも、その際、被告名義の領収証も発行しているものであって、これらBの行為は、客観的、外形的に見て被告の事業の執行につきなされたものということができるから、被告は、民法七一五条一項に基づき、原告らが被った損害を賠償する責任を負う。

(三) 損害額

原告らの損害は、右(二)の各金額から、原告X1が本件出資金元金として返還を受けた合計五〇〇〇万円を控除した左記金額となる。

(1) 原告X1 一億八七〇〇万円

(2) 原告X2 一億二八〇〇万円

(3) 原告X3 一七〇〇万円

6  よって、原告らは、被告に対し、委託証拠金返還請求権または民法七一五条一項による損害賠償請求権に基づき、原告X1につき一億八七〇〇万円、同X2につき一億二八〇〇万円、同X3につき一七〇〇万円の各金員及びこれらに対する原告らがBに対し、これら金員を交付した最終の日の翌日以降の日、またはBの不法行為以後の日である平成七年一一月三〇日から各完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を各求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(当事者)は認める。

ただし、Bが被告仙台支店長であった時期は、一二月二五日までである。

2  請求原因2ないし4(原告らの取引の経過)は否認もしくは争う。

3(一)  請求原因5(一)(委託証拠金返還義務)は争う。

原告らはいずれも、本件出資金の授受とは別個に、同時かつ並行的に被告を通じて商品先物取引を行っているのであり、委託証拠金とはどのようなものか、正規の委託証拠金預り証はどのような形式のものであるかは熟知していた。

したがって、原告らがBに交付した本件出資金は、被告との契約に基づく委託証拠金でないことは、原告ら自身、十分承知していたものである。

(二)  同(二)(使用者責任)は否認もしくは争う。

本件取引は、Bが被告の大手法人客の大口取引による利益を原告らに差し替えすることとしてなされた、他人の利益を横取りするという正に犯罪行為、横領行為であり、その職務に関連して行われた行為でないことは明らかであるから、使用者責任は全く問題とならない。

三  抗弁(使用者責任に対し)

1  悪意または重過失

(一) 原告X1は、昭和五六年一〇月ころから平成七年一二月二七日まで被告との間で長年にわたり商品先物取引をしており、また、同X3は、被告の元社員で、登録外務員をしていた経験から、いずれも商品先物取引の内容を熟知していたものであり、同X2も、商品先物取引が自己の責任に基づいて行われるもので、大きく利益を上げることもあれば、大きく損失を被ることもあり得ることを熟知していた。

(二) そして、前記のとおり、原告らは、商品先物取引における委託証拠金とはどのようなものか、その預り証がどのような形式のものかも熟知していたところ、仮に、原告らが、Bの説明を信じ、単に利益のみを目的として本件取引をしたとしても、一週間ないし一か月で五パーセントを超えるような非常識かつ異常な利益が得られるということは、バブルがはじけ定期預金金利が年〇・二パーセント以下といういまだかつてない低金利で、多くの投資物が元金割れになっている平成七年の冷え切った時代において、通常ではあり得ないことぐらい、全く投資には素人の一般大衆においても常識として容易に理解し得るものである。

したがって、何らかの違法行為が行われないと、そのような異常な利益が得られるものでないことぐらいは、誰でも分かる事実であり、その一方、右のような異常な利益であったからこそ、原告らは、従来の投資金額とはかけ離れた多額の本件出資金を出捐するに至ったものである。

加えて、原告ら主張のような、Bの原告らに対する単なる優遇措置であるといった程度の説明で、億からの大金を投ずるはずはなく、原告らは、Bから詳しくその内容を聞き、納得したからこそ、右のような大金を投じているのである。

さらに、その内容は、他人の利益を横取りするという、正に犯罪行為、横領行為を行うことであり、それ故に極めて確実かつ危険性なしに利益を得る方法であるとして、本件出資金を投じたのであり、右犯罪行為を行うのがB支店長自らであることから、発覚の心配もなく、安心したものにほかならず、原告らは、右のようなBの違法行為が被告の事業の執行につき行われたものでないことを知っていたというべきであり、そうでないとしても、知らなかったことにつき重大な過失がある。

2  過失相殺

仮に、そうでないとしても、右の事実関係に照らせば、少なくとも、原告らには、本件取引によって損害を被ったことにつき過失がある。

四  抗弁に対する認否

いずれも否認ないし争う。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  本件取引の経過について

請求原因1(当事者)の事実は、Bが被告仙台支店長であった時期を除き、いずれも当事者間に争いがなく、右事実に、証拠(甲一ないし六、一五号証、一六号証の1、2、一七ないし二七号証、二八号証の1ないし3、二九ないし五五、五七、六七、六八号証、六九号証の1、2、七〇ないし七二号証、乙三号証の1ないし20、四号証の1ないし4、五号証の1ないし3、一二号証の1ないし57、一三号証の1ないし8、一四号証の1、2、一五号証の45、二五号証の1、2、二八号証の1ないし3、二九ないし三一号証、四二ないし四五号証、証人Cの証言、原告ら各本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば、本件取引の経過について、以下の事実が認められる。

1  当事者

(一)  原告X1は、観光土産品店を営む有限会社aの代表取締役であるとともに、寺院の住職の地位にあり、昭和五六年から被告との間で商品先物取引を開始し、他の先物会社との間でも取引を行い、その取引内容は、金のほか、大豆やゴム等にも及んでいたが、その際の委託証拠金の金額は一〇〇万から三〇〇万円の範囲に止まっていた。同時に、原告X1は株取引も行い、その投資額が二〇〇〇万円くらいに達することもあり、合計で二〇〇〇万ないし三〇〇〇万円の損失を出していた。

(二)  原告X2は、同X1の古くからの友人で、同X1の営む会社と取引関係にもあるが、本件取引に至るまで、株取引や商品先物取引を行った経験はなかった。しかし、商品先物取引に関しては、大きく利益を上げることもあれば、大きく損失を被ることもあり得ることは認識していた。

(三)  原告X3は、同X1のいとこで、贈答品販売業を営む者であるが、大学卒業後の昭和四四年から約一年半の間、被告に勤務し、セールス業務に従事したことがあったが、自分には不向きであると判断して退社し、その後、本件取引に至るまで、株取引や商品先物取引を行ったことはなかった。

2  本件取引の経緯

(一)  Bは、一月初めころに被告仙台支店長に着任したが、その後間もなく原告X1宅を訪問して商品先物取引を勧誘した。しかし、原告X1は、それまで商品先物取引において利益を得たことがなかったため、一たんはこれを断った。しかし、その後も度々、「任せて下さい。絶対大丈夫です。」と熱心に勧誘されたことから、取りあえず少額ならば、取引をしても構わないとの気持ちになり、二月二日、ゴム取引のため合計六三万円の委託証拠金を交付した上、従前の取引を継続する形で商品先物取引を行ったところ、Bは、間もなく、二〇万円の利益が出た旨報告してきた。

(二)  その後、原告X1は、数回右同様の取引を行ったが、Bは、いずれの取引においても利益が出ている旨報告し、さらに大きな儲け話があるので、ぜひ会いたいと申し入れた。そこで、原告X1は、同月二〇日過ぎころ、仙台市内のホテルでBと会ったところ、Bは、原告X1に対し、「普通に先物取引をしていたのでは、大きく儲けることもあれば、逆に、大きく損をすることもあります。被告として、五パーセントの利益保証をするので、まとまったお金を出してみませんか。」等と勧誘した。

そこで、原告X1が、「間違いなく五パーセントの利益保証をしてくれるのですか。」と尋ねると、Bは、「支店長である私を信じて下さい。私は、本社の法人部にいた関係で、東京の大手法人客の大口取引を任されています。常時、一〇億円程度を運用する権限があります。大手法人客からは莫大な手数料収入があるので、特別な優遇措置を設け、利益保証をして、大手法人客を離さないようにしているのです。私の権限で、X1さんを特別に大手法人客の取引枠に入れることによって、間違いなく五パーセントの利益保証を致します。ですから、取りあえず、二〇〇〇万円を委託証拠金として出してみませんか。」とか、「例えば前場一節で買って後場三節で利益を出し、その一部をX1さんに差し替えると確実に利益が出て、五パーセントの利益を確実に保証することができるのです。」等と説明した。

原告X1は、証券会社による大手法人客に対する損失補填等のことが新聞等で報道されていたことから、商品先物取引会社においても、このようなことがあり得ることを信じる一方、なお、不安もあったため、「被告自身が五パーセントの利益保証をしてくれるのですね。会社の領収証をもらえるのでしょうね。」と念を押したところ、Bは、「もちろんです。被告が責任を持って行う取引ですから、会社としての領収証を発行致します。」と答えた。

(三)  原告X1は、右説明を聞いて、Bの勧誘に応じて委託証拠金として金員を交付することとし、同月二四日、原告X1宅で、集金に来たBに対し、現金二〇〇〇万円を交付した。

(四)  三月初めころ、Bは、原告X1に対し、「利益が出ましたのでお持ちします。儲かりましたんで、もう少し出してくれませんか。」等と述べて、さらなる出資を勧誘するとともに、新たな出資者の紹介も依頼した。

そこで原告X1は、一二〇〇万円の出資を決意するとともに、原告X2に対し、「先物取引会社の仙台支店長が、必ず利益を保証すると言っている。事実、これまで利益を出している。あなたも出資してみないか。」等と言って被告への出資を誘った。これに対して、原告X2は、一度話を聞こうと思い、Bに会うこととした。

(五)  同月三日、Bは、前記(三)の二〇〇〇万円とその利益金一〇〇万円とを持参して原告X1方を訪れた。原告X1は、Bから右金員を受け取った上で、右二〇〇〇万円に一二〇〇万円を加えた合計三二〇〇万円を委託証拠金としてさらにBに対して交付した。

このように、Bが約束どおりの利益金を持参したことから、原告X1は、それまで半信半疑であったものが、Bの言をすっかり信用し、同人の勧誘のままに金員を交付しようとの気持ちになるとともに、その場で原告X2をBに紹介した。

(六)  Bは、原告X2に対し、「被告に投資すれば、投資額の五パーセントの利益を保証します。」等と申し向けた上、「これまでに被告との取引がなく、新規の取引となるので、まず、口座を開設してもらう必要があります。支店長の私が保証するので、確実な取引です。X1さん同様利益を出しますので、お任せ下さい。」等と言って取引を勧誘した。

原告X2は、右(五)のとおり、その場で原告X1が、Bから利益金を受け取っているのを確認していたし、被告名義の領収証も見たことから、Bの言を信用して右取引に応じることとし、口座開設に必要な書類に署名押印した上、事前に準備していた三〇〇万円をBに交付した。Bは、その一部を正規の商品先物取引のための委託証拠金として取り扱った。

(七)(1)  このようにして、原告X1は、その後新たに、①三月三〇日に一〇〇〇万円、②四月二一日に一〇〇〇万円、③五月一〇日に一〇〇〇万円、④六月二九日に二七〇〇万円、⑤七月一二日に八〇〇万円をBに対してそれぞれ交付した。

(2) また原告X2も、①三月三〇日に一五〇〇万円、②五月二六日に三〇〇万円、③七月一二日に二〇〇万円をBに対してそれぞれ交付した。

(3) なお、Bは、原告X1及び同X2に対して、左記のとおり、それまでの出資金額の五パーセントに当たる金員を利益金として持参し、これを交付した。

(原告X1)

① 三月三日 一〇〇万円(前記(五)のとおり)

② 三月三〇日 一六〇万円

③ 四月二一日 二一〇万円

④ 五月一〇日 二六〇万円

⑤ 六月二九日 三一〇万円

⑥ 七月一二日 三四五万円

(原告X2)

① 三月三〇日 一五万円

② 四月二一日 九〇万円

③ 五月二六日 九〇万円

④ 七月一二日 一〇五万円

(4) 原告X1は、その間の七月五日、Bから、それまでBに交付した出資金元金八九〇〇万円のうち、二〇〇〇万円の返還を受けた。

(八)  Bは、同月中旬ころ、原告X1に対して、利益金を持参して八月一〇日に訪問する旨連絡したにもかかわらず、右期日に原告X1宅を訪問しなかった。そこで、右同日ころ、原告X1がBに電話して問い合わせたところ、Bは、「一一月中旬ころ、被告が店頭上場することになっていますが、上場手続との関係で、事務処理上、一時的に利益金の引き出しが困難になりました。上場手続が完了する一一月中旬ころには、確実に利益金をお支払いします。」等と説明した。

原告X1及び同X2は、右説明を聞き、これまで利益金の支払を実際に受け、また、被告名義の領収証が発行されていたこと、Bが自信満々に確実に利益金を支払う旨述べていたことから、右説明を信用し、特段疑いを持つことはなかった。

(九)(1)  その後、原告X1及び同X2は、さらに、委託証拠金の名目で、Bに対して左記のとおり金員を交付したが、その際、Bは、当初約束した利益金を持参しなかったため、現実には、名目上の出資額(出資額面額)から、これまで交付してきた出資金の合計額の五パーセントに当たる金額(持参されるべき利益金額)を控除した金額を交付した(現実の出資額)。

(原告X1)

出資額面額 現実の出資額 控除額

① 九月一日 三〇〇〇万円 二六一五万円 三八五万円

② 同月一一日 六〇〇〇万円 五四六五万円 五三五万円

③ 同月一九日 三〇〇〇万円 二三一五万円 六八五万円

④ 同月二五日 二〇〇〇万円 一一六五万円 八三五万円

(原告X2)

① 九月一一日 六〇〇〇万円 五七七〇万円 二三〇万円

② 九月二〇日 二〇〇〇万円 一五八五万円 四一五万円

③ 一一月二四日 二五〇〇万円 一四七〇万円 一〇三〇万円

(2) なお、原告X1は、その間の九月一三日、それまでの出資金元金のうち三〇〇〇万円の返還を受けた。

(一〇)  また、九月下旬ころ、Bは、原告X1に対し、「X2さん以外にも出資する人を紹介してくれませんか。その人についても被告が利益保証をするし、書面も出します。」等と言って新たな出資者の紹介方を依頼した。そこで、原告X1は、同月二五日、自宅において、原告X3を紹介した。

Bは、原告X3に対し、会社には法人部があって、大手法人客から金を集めて取引を行っており、間違いなく会社で利益を保証して儲けさせている等と説明をし、原告X3が、かつて被告に勤務していたことを話すと、「客の無理な勧誘等をしなくても、大口取引だけで十分に利益を上げていける優良企業であり、安心して下さい。もし必要であれば、いつでも言ってもらえば四日以内に出資金を返金します。この話は優良顧客だけに限定して行っている取引なので、一度も売り買いがないと会社に推薦することは難しい。まず口座を開設して、少額でよいので、取引して欲しい。私が信用できなければ、いつでも本社に連絡して下さい。いつでも本社にご一緒して重役と会っていただきます。」等と申し向けて、本件取引を勧誘した。そこで原告X3は、Bの話に応じることとし、Bに対し、取りあえず、金一〇枚を買うことの委託証拠金として六〇万円を交付した上、右利益保証がなされる本件取引分として一〇〇〇万円を交付した。

さらに、原告X3は、一一月二四日、Bに対し、さらに現金七〇〇万円を交付することとしていたが、前記(九)と同様、Bは利益金を持参しなかったため、当初の約束に基づく利益金額一〇〇万円を控除した六〇〇万円を現実には交付し、計算上は七〇〇万円をBに交付したこととした。

(一一)  以上の経過において、原告らが、Bに対して現実に交付した金額は、原告X1が合計二億一二六〇万円、同X2が合計一億一一二五万円、同X3が合計一六〇〇万円となる。

3  原告らに対する領収証の発行

前示2のとおり、原告らは、Bに対し、それぞれ多数回にわたり本件出資金を交付したが、その度毎に、Bは、原告らに対し、右交付を受けた金額(原告らにそれ以前の取引による利益金額を交付すべきところその交付がなされなかった場合には、原告らが実際に委託証拠金として交付した金額に右利益金額を加えた額)が記載され、「豊商事株式会社仙台支店」との横判と角印が押捺され、但書欄に「イタクショウコキントシテ」とタイプされた領収証(甲二、四及び六号証と同じ形式のもの)を発行した。

なお、原告X1については、八月三〇日、それまでの出資金合計七七〇〇万円の領収証(甲四九号証)が発行され、これと引き換えにそれまで受領していた領収証をBに返還した。

4  本件取引発覚の経緯

(一)  Bは、前示2(八)のとおり、被告の上場手続が終了する一一月中旬ころまでには利益金の支払ができる等と説明していたが、右時期を経過してもこれを支払わなかったため、原告X1は、Bに対し、事情を説明するよう求めた。これに対してBは、「上場手続は完了しましたがその後の事務処理に手間取っているので、一二月二一日まで待って下さい。これまでの原告らの出資金の合計額についての領収証を発行しますし、また、元利金は被告が責任を持って支払います。」等と説明し、一一月三〇日、原告X1につき一億八七〇〇万円、原告X2につき一億二八〇〇万円、原告X3につき一七〇〇万円の領収証(甲二、四及び六号証)、さらに、いずれも手書きで右各金額及び「上記金額正にお預り致します。尚返済期日は平成七年一二月二一日で二パーセントの利回りを保証致します。」との文言が記載され、「豊商事株式会社仙台支店」との横判と角印が押捺され、その下にBの署名押印のある預り証(甲一、三及び五号証)を発行した。そして、これと引き換えに、原告らは、それまでに受領した領収証を全てBに返還した。

(二)  しかし、右一二月二一日になって、Bは、原告X1に対し、お金を準備することができなかったのでもう少し待って欲しい等と要請してきたため、不審に思った原告X1は、翌二二日、被告本社に電話し、応対したC(以下「C」という。)管理部長に対して、「お宅の仙台支店長の勧誘に基づいて委託証拠金を預けたが、約束した日になっても返還されない。」と話したところ、Cは、その調査を約束した。

(三)  被告は、一二月二五日ころから平成八年一月下旬ころまでの間、Bから本件取引に関して事情を聴取するなどし、その結果、Bは、被告熊谷支店に勤務していた平成四年の後半ころから本件取引と同様の方法により、あるいは貸付けを受ける形で、原告らを含む顧客一二名から六億六一〇〇万円に上る資金を集めたこと、さらに、原告らから集めた本件出資金の一部は被告熊谷支店勤務時代の借入れの返済に充てたほか、いわゆる手張りをするために使用し、したがって、そのうちの相当額が被告の手数料収入となっていることが認められたものの、Bがこのようにして資金を集めるに至った動機や原因、さらには、その具体的な使途や金額等についてはほとんど解明されておらず、右調査結果は甚だ不十分なものとなっている。

そして、右被告による事情聴取の終了後、Bは、所在不明となり、原告ら、被告いずれからも連絡が取れない状況となっている。

二  委託証拠金返還請求権

前示一の事実及び乙一二号証の1ないし57、一三号証の1ないし8、一四号証の1、2によれば、本件取引は、原告X1がそれまで被告との間で行っていたような、商品取引所の商品市場における売買取引を委託し、そのための担保として委託証拠金を交付し、被告において、これを受領した旨の預り証を交付するとともに、毎月その残高を照合するとの正常な商品先物取引の形においてなされたものでないことは明らかであり、かつ、本件全証拠によっても、原告らがBに対して交付した本件出資金が、被告に、右のような形で委託証拠金として入金された事実も認められないことから、原告らと被告との間に、右のような商品先物取引についての委託契約が成立したとすることはできず、したがって、被告に、右契約に基づいて、原告らに対し、右金員の返還義務が発生する余地はないものというべきである。

三  使用者責任

そこで、被告の使用者責任について検討する。

1  前示一の事実によれば、Bは、原告らに対し、被告においては、大手法人客に対し、利益保証をしているところ、Bの権限で原告らを特別に右のような大手法人客の取引枠に入れることによって、被告において間違いなく出資金の五パーセントの利益を保証するとの虚偽の事実を申し向けて、委託証拠金の名目で原告らから本件出資金の交付を受け、実際には、これをB個人の借入金の返済や自ら手張り行為をすること等に費消したものであって、右Bの行為が詐欺として、不法行為に該当することは明らかである。

2  次に、Bの右行為が、被告の事業の執行につき行われたものということができるかどうかについて検討する。

右に見たとおり、Bは、原告らから、委託証拠金名下に本件出資金を詐取したものであるところ、右行為は、Bが被告仙台支店長の地位を強調することによってなされていること、委託証拠金の受領は、商品取引員である被告の本来の事業の範囲内にあることに加え、Bが原告らに対して発行した領収証(甲二、四、六、四九ないし五二号証)には、いずれも「豊商事株式会社仙台支店」との記名押印がなされているのみならず、「イタクショウコキントシテ」との記載もあること等を考え併せれば、原告らにおいて、Bが被告仙台支店長として本件取引をするような権限を有すると信じるについては、やむを得ない事情があったものというべきであり、Bが原告らから本件出資金の交付を受けた行為は、客観的、外形的に見て、被告の事業の執行の範囲内に属するものと認めるのが相当であり、被告は、Bの右行為につき、民法七一五条一項に基づいて責任を負う。

3  そこで、進んで、原告らが本件出資金を交付した際、原告らに悪意または重過失があったかどうかについて検討する。

(一)  悪意について

本件全証拠によるも、原告らが、前記Bの行為について、同人の職務権限を超えたものであり、適法に行われたものではないことを知っていたと認めることはできない。

なお、Bの報告書(乙二九号証)中には、Bが原告らに対し、本件取引は違法な方法によって利益を捻出するものであり、そのため被告には内密に行うものであって、被告にこのようなことが判明すると、Bは解雇されることになる旨説明したとの記載がある。

しかしながら、証人Cの証言によれば、右乙二九号証は、被告がBから聴き取った内容を整理してBが署名押印したとのいわば被告内部において第三者による検証の機会のないまま作成されたものであるところ、前示のとおり、Bは、原告らに対し、虚言を弄して本件出資金を詐取した当人であり、しかも、被告による本件発覚後の調査内容は、甚だ不十分なものであることに照らせば、右書証自体、極めて信用性に乏しいものというべきである。加えて、その説明内容についても、同書証中において、「私の話だけでは相手が納得しないので印鑑を偽造しました。会社の印鑑を使用することは出来ないので、偽造という犯罪行為をしている自覚はありました。」と説明していること、すなわち、前示のとおり、Bは、終始原告らに対し、被告の取引である旨を強調して本件取引を勧誘してきた事実と矛盾するものというべきである。さらに、B自身が作成した報告書(乙三〇号証)には、Bが原告X1に対し、「これは他人には言わないで下さい。ウチの社員にも内密ですから。」と話したのに対し、原告X1が「支店長ももうかるの。」と聞くと、「もちろんです。ですから内緒なんです。」との記載があるのみで、本件取引が違法であり、そのために被告に対して内密にするようにとか、ましてやこのことが判明するとBが解雇されることになるとの趣旨は含まれておらず、このことは、被告代理人がBから事情を聴取したテープの内容(乙四二ないし四四号証、検乙一及び二号証)においても同様である。むしろ前示のとおり、Bは、原告X3に対しては、本件取引に関し、「いつでも本社に連絡して下さい。いつでも本社にご一緒して重役と会っていただきます。」とさえ述べているのであって、このような事情に照らせば、なおさら右乙二九号証は信用することができない。

(二)  重過失について

(1) 確かに、原告らに対してBが発行した領収証(甲二、四、六、四九ないし五二号証)は、被告が発行する正規の委託証拠金預り証(例えば乙一八号証の1)と形式が異なっており、預り証(甲一、三及び五号証)及び原告X1に交付された領収証(甲五三号証)は、いずれも手書きのものであって、様式において明らかに異なるものであること、本件取引を勧誘する際、Bは、必ず利益が出る、利益を保証する旨述べているばかりか、その利益額も出資額に対し、時には一か月に満たない期間で五パーセントとするなど、正常な商品先物取引においてはあり得ない内容のものであること、本件取引期間中、原告らは、Bに対して交付した本件出資金については何らの記載もなされていない残高照合通知書を受け取り、残高照合回答書の大部分に、通知書のとおり相違ない旨記載し、署名押印の上、被告に返還していた(乙一二号証の50ないし57、乙一三号証の1ないし8、乙一四号証の1及び2)こと等を考慮すると、本件取引の内容及びその過程には、不自然な事情があったことは否定することができない。

(2) しかしながら、同時に、以下のような事情が考慮されるべきである。

① Bが発行した領収証(甲二、四及び六号証)の作成名義は被告仙台支店であって、かつ、その角印が押捺されており、右領収証は、正規の委託証拠金預り証とは形式が異なるとはいえ、それ自体は被告が発行したものであるとの外観を備えているものであり、右領収証には、いずれも「イタクショウコキントシテ」とタイプされている。

また、預り証(甲一、三及び五号証)についても、被告の用紙が用いられている上、Bの個人名の上に、被告仙台支店の横判と角印が押捺されており、第三者において、これら書面が正規のものであるかどうかを判別することは困難であるというべきである。

② Bは、原告X1に対し、委託された商品先物取引を行って同原告に利益をもたらしたことを契機に、さらに大きな儲け話がある旨申し向けて本件取引の勧誘をしており、右Bの勧誘の方法は、原告X1に対し、さらに利益を得たいとの欲求を生じさせるよう仕向けるに十分であったし、その際、被告名義の領収証を発行する旨申し向けるなど、その説明内容自体、被告による取引であることを印象づけるものである。

③ また、Bは、原告X2を紹介された際には、原告X1との間で利益金の授受を行った上で、また原告X3を紹介された際には、原告X1、同X2に対して利益金額を控除する形で利益を授与した上で、いずれもその場で本件取引を勧誘しており、その際、少量でも被告との取引を開始しないと、被告に推薦しにくい旨申し向けて正規の銀行口座の開設を要請した上、本件取引以前に正規の商品先物取引を行うなど、本件取引が被告の取引であることをあくまで強調している。

④ そして、何よりも、Bが被告仙台支店において、支店長という最高の地位にあり、本件取引の勧誘も右支店長としての職務に関連づけて行われており、同時に、当時、証券会社による大手法人客に対する損失補填等が新聞等で報道される等の背景事情も存在した。

以上の諸事情に照らせば、原告らが、支店長としての地位、権限を有する者であれば、Bの説明のごとき本件取引が可能であると信じても無理からぬものがあったというべきである。

(3) なお、前記残高照合回答書についても、以下のような事情がある。

すなわち、そもそも原告らが、右回答書を被告に送付したのは、いずれも本件取引開始以後のことである。

また、原告X1が被告に返還した右回答書のうち、郵送されたものは全て消印の日付が七月一〇日であり(乙一二号証の51、53、54)、その中には記名押印だけして被告に返還しているものがある(乙一二号証の53、54)。また、原告X1本人尋問の結果によれば、本件取引開始以前の時期における右回答書の中には、原告X1の筆跡と違うとするものもあり(乙第一二号証の4、6、33ないし38)、原告X2及び同X3の本人尋問の結果によれば、右両名についても、右回答書作成の認識が乏しいことが認められ、これらのことからすると、原告らが右回答書を作成するに当たって、残高照合通知書等被告から送付された資料を十分に閲覧していない事情が窺われる。

この点に加え、原告X1本人尋問の結果によれば、原告X1は、商品先物取引は多少損してもよいかなという認識で行っていたこと、前示のとおり、原告X2、同X3の両名は、それまで商品先物取引を行った経験がないことに照らすと、右回答書が被告から送付され、原告らがこれに残高照合通知書のとおり相違ない旨記載し、被告に返還していたことをもって、右(2)のとおりの、原告らが、Bの説明のごとき本件取引が可能であると信じたことに無理からぬ事情があったとの認定を左右し得るものではない。

(4) そして、以上の事情を考慮すれば、本件取引に関し、原告らに重過失があったと認めることはできない。

4  したがって、この点に関する被告の主張も採用することはできず、被告はBの本件不法行為によって原告らが被った損害について、その使用者として、その賠償の責任を負う。

四  過失割合

1  原告らの過失

(一)  前示一2(本件取引の経過)及び三3(悪意または重過失)のとおり、本件取引を勧誘されるに際し、原告らは、全く損をしない商品先物取引等はあり得ないこと、また、本件取引が原告らを特別に優遇するものであって、通常の商品先物取引とは異なるものであるとの認識を有していたのみならず、時には一か月未満という出資期間で、出資額につき五パーセントもの利益を保証できるという通常ではあり得ないようなBの説明に対して過大な信頼を寄せ、右のような利益保証を受けるために、本件出資金をBに交付したものである。

(二)  また、右金員授受の態様等についてみても、原告らは、Bの作成にかかる領収証及び預り証を受け取ったのみであって、被告の発行する正規の預り証との形式の差異を看過して、本件取引を継続したものである。

そして、これらの事情からすれば、原告らにおいて、少なくともBの勧誘に際し、また、本件取引に応じるようになった後においても、Bの言動に十分注意し、慎重な対応をとっていれば、本件取引が不合理なものであることが判明し得たにもかかわらず、原告らは、確実に利益を得られるとのBの説明に気を奪われ、結局、Bの甘言にさして考慮を払うことなく本件取引をなし、その結果損害を被ったのであって、右損害を被ったことについては、原告らに相当の過失があったものというべきである。

2  しかし、他方、右原告らの過失の程度を判断するに当たっては、Bの原告らに対する勧誘行為は、何よりも、被告仙台支店長との立場を利用したものであり、原告らにおいて、支店における最高責任者たる支店長であれば、本件取引をするような権限を有すると信じるについては真にやむを得ないものであったとの事情が考慮されるべきである。加えて、右Bの欺罔行為においては、原告X1に対しては、商品先物取引により利益が出た旨の報告を契機として、さらに大きな取引を持ちかけ、原告X2及び同X3に対しては、Bと原告X1との利益のやり取りを目前にした場で取引を勧誘し、さらに、Bは、七月ころまでは実際に利益金を持参し、また、これを持参しなくなった九月以降は、原告らの出資額について利益金相当額を控除する旨の計算をして、実際に利益保証がなされているかの如き工作をしていること等、その手口が巧妙であったこと等の事情も存在する。

3  そして、これらの諸事情を考慮すれば、原告らの過失割合は、原告らそれぞれにつき四割とみるのが相当である。

五  損害

次に、原告らの損害について検討する。

1(一)  前示一のとおり、原告X1が合計二億一二六〇万円、同X2が合計一億一一二五万円、同X3が合計一六〇〇万円をBに交付している。

(二)  この点につき、Bが作成した報告書(乙三〇号証)中には、前記領収証等(甲一ないし六号証)は、原告X1が金額を勝手に振り分けした上、右振り分けに従い、Bに作成させたものである旨の記載があり、原告X1が作成したメモ(乙三二号証の1ないし4)には、右報告書の記載に沿うかのごとき記載がある。

しかし、右乙三〇号証について、そもそも被告における調査に際してのBの供述自体信用に値しないことは前記乙二九号証と同様であり、さらに、甲四九ないし五二号証及び原告ら各本人尋問の結果によれば、甲二、四及び六号証の各領収証は、従前原告らがBから交付を受けてきた領収証の枚数が増えたこともあり、交付した金額の総額について、これを一本化するために作成されたものであって、従前にもBは、全く同じ形式の領収証を発行していたことが認められること、及び、右メモが、いつ、どのような機会に作成されたものであるかについては、証拠上、明らかではないことに照らせば、これをもって直ちに、原告X1が領収証記載の金額の振り分けをし、かつ、右振り分けに従いBに右領収証等を発行させたと認めることはできない。

また、Bの報告書(乙二二号証)及び乙四三及び四四号証中にも、右(一)の認定に反する部分があるが、これら書類に信用性のないことは前記乙二九及び三〇号証と同様であり、かつ、そこにおけるBの説明は、Bが原告X1に対して発行した領収証(甲四九ないし五三号証)と符合しないことからしても、採用することはできない。

そして、他に右(一)の認定を左右するに足りる証拠はない。

2  そして、前示一によれば、原告X1は、七月末までに、Bが持参した利益金の合計一三八五万円を、同X2は、右利益金の合計三〇〇万円をそれぞれ受領し、また、原告X1は、七月五日に二〇〇〇万円、九月一三日に三〇〇〇万円の各出資金元金の返還を受けているので、これらを右1から控除した、原告X1については、一億四八七五万円、同X2については、一億〇八二五万円、同X3については、一六〇〇万円が、それぞれ原告らに生じた損害というべきである。

3  これに、前記四の割合による過失相殺をすると、被告が賠償すべき損害の額は、原告X1につき、八九二五万円、同X2につき、六四九五万円、同X3につき、九六〇万円となる。

六  結論

以上によれば、原告らの請求は、原告X1については、八九二五万円、同X2については、六四九五万円、同X3については、九六〇万円及びこれら各金員に対するBの不法行為以後の日である平成七年一一月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条、六四条、六五条を、仮執行の宣言について同法二五九条一項を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 梅津和宏 裁判官 衣笠和彦 裁判官 瀬戸茂峰)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例